違いが分かるは幸せか?

毎日新聞よりワインの味が分かる人、分からない私100万円ほどの超高級ワインと5000円のテーブルワインの味の違いを芸能人が判別するというテレビ番組を、何気なく見ていた。グルメで味覚が鋭いと思われている芸能人でも結構間違うことがあるのだなと驚いた。その一方で、40回以上連続で当てている芸能人もいて、話題になっている。

私は酒が飲めないのだが、友人と高級レストランで食事をする機会もある。ある時、ワインのおいしい店に誘われたが、友人とソムリエが相談した結果決めた高級ワインと、その前に頼んだ安めのハウスワインの違いがさっぱり分からない。値段を聞くとハウスワインの5倍以上するらしい。味の分かる友人同士はワイン談義で盛り上がるが、私は蚊帳の外。盛り上がった勢いで友人はさらに高級ワインを注文する。もとより酒が飲めないので3本目も味など分かるはずもない。そうこうするうちに高級ワインを数本あけて、終わってみれば支払いは割り勘である。ほとんど飲んでいない私としては釈然としないが、そういう店に行ったのだから、まあ仕方がないかとも思う。

結婚記念日や誕生日などには、日ごろの感謝を表すために妻と高級レストランで食事をする。確かに厳選された高級食材で調理された料理はおいしくいただけるが、お酒と共に味わうことのない私には量が少なすぎる。デザートまで食べても満足感がないときは、帰りに近所のラーメン屋さんに寄ることもある。私の好みは比較的安いB級料理であるので、高級料理はコスパが悪いと感じてしまう。

良いものを理解するがゆえの悩みさて味音痴で酒が飲めない私は不幸なのだろうか?私にとっては1000円のワインも5万円のワインも同じなので、高いワインを飲む必要はない。高級料理店に行かなくとも、近所の中華料理店で満足だ。その他にも特にこだわった高級品がほしいとも思わない。一方、違いが分かる人は高級品や食材にこだわるのでお金もかかるし、酒がおいしく飲める人は飲酒量がついつい増えてしまう。私ごとで申し訳ないが、ワインの好きな友人は先日、食道がんで他界した。

確かに、良いものが理解できるということは大変な才能であるだろうが、それゆえにいろいろとこだわりも強く、悩みも多いように感じる。あれこれ悩むと脳内の情報伝達物質であるセロトニンをどんどん使って、ついには自律神経の機能が低下し、うつ状態や不安にもなりやすい。最近、うつ病が増えたのはインターネットなどの情報が格段に増えたことにも原因があるのではないかと、私は感じている。

2014年に亡くなった作家、渡辺淳一さんの晩年の著書に鈍感力がある。忙しい現代社会でいろいろなことに敏感になっていては疲れ果ててしまうので、鈍感になる能力も大切だと語っている。もっともな話ではある。

しかし、鈍感な人が訓練で敏感になることは可能だろうが、敏感な人がいくら頑張っても鈍感になるのは難しい。そんな敏感な人はなるべく情報に接しないことが大切だ。公共交通機関の中ではスマホなどを取り出さないことも、セロトニンを減らさないコツだ。ましてや、歩きながらのスマホはやめたほうが良いだろう。

石蔵文信

大阪樟蔭女子大学教授

いしくらふみのぶ1955年京都生まれ。三重大学医学部卒業後、国立循環器病センター医師、大阪厚生年金病院内科医長、大阪警察病院循環器科医長、米国メイヨークリニックリサーチフェロー、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授などを経て、2013年4月から現職。循環器内科が専門だが、早くから心療内科の領域も手がけ、特に中高年のメンタルケア、うつ病治療に積極的に取り組む。01年には全国でも先駆けとなる男性更年期外来を大阪市内で開設、性機能障害の治療も専門的に行う。夫の言動への不平や不満がストレスとなって妻の体に不調が生じる状態を夫源病と命名し、話題を呼ぶ。また60歳を過ぎて初めて包丁を持つ男性のための男のええ加減料理の提唱、自転車をこいで発電しエネルギー源とする可能性を探る日本原始力発電所協会の設立など、ジャンルを超えたユニークな活動で知られる。妻の病気の9割は夫がつくるなぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのかエイリアン妻と共生するための15の戦略など著書多数。