禅と骨

日米文化の懸け橋となった男の老いてもなお衰えない情熱と行動力。一方で家族からは悪口を言われている。対象の表の顔だけでなく、駄々をこねたりする様子までとらえた映像は人間的な感情に満ち溢れ、ほのかな笑いすら誘う。

監督 中村高寛

出演 ヘンリ・ミトワ/ウエンツ瑛士/余貴美子/利重剛/伊藤梨沙子

ナンバー 165

批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

横浜生まれの血が騒ぐのか、老僧は「赤い靴」の童謡を映画にしようとする。父が米国人ゆえに戦争中はスパイ扱いされ、渡米しても待っていたのは収容所暮らし。帰国後は日本文化をこよなく愛する風流人として過ごしたのちに、禅宗の僧侶となって嵐山に居を構える。カメラは、日米文化の懸け橋となった男の生涯に肉薄すると同時に、彼の最晩年に密着する。映画作りの資金集めで全国を奔走するうちに何度も方向転換を余儀なくされる。それでもあきらめず、アニメにして上映にこぎつける。老いてもなお衰えない情熱と行動力。ところが、家族からはボロカスに悪口を言われている。対象の表の顔だけでなく、駄々をこねたりすねたりする様子までとらえた映像は人間的な感情に満ち溢れ、ほのかな笑いすら誘う。

大東亜戦争中、日本での生活に息苦しさを覚えていたヘンリーはLAに渡る。日米開戦後、日系人収容所で結婚し家庭を持つが、戦後しばらくして日本に帰ってくる。その後、茶道・華道・禅などに傾倒していく。

京都の僧侶仲間からは粋人と評され、本人もいっぱしの文化人を気取っている。欧米系白人の風貌と流ちょうな日本語で、メディアに取り上げられたり著書を出版したりもする。そして、映画に携わったのをきっかけに自らも制作に乗り出す。まったくの素人、手探りで協力者を募るなかなか出資者は現れない。本来、この「禅と骨」はヘンリーが「赤い靴」の映画を完成させる過程を追う企画だったはずなのに、ヘンリーの迷走とともに、「禅と骨」も着地点が見えなくなっていく。予定調和にはないスリル、これぞドキュメンタリーの醍醐味だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

90歳を過ぎ病気がちになったヘンリーは監督によるインタビューを避けるようになる。些細なやり取りにへそを曲げレンズを向けられるのを嫌がる。やがて家族に看取られて息を引き取るヘンリー。監督は葬儀・納骨と彼の人生に最後まで付き合うことで礼を示す。芸能人のプロモ風ドキュメンタリーとは一線を画す、ヘンリーという男の真実に迫る作品だった。

オススメ度 ★★★

広告を非表示にする